多価性(ポリフォニー)―1つのサインが複数の読みを持つ仕組み
同音異字の「裏返し」の現象
Section titled “同音異字の「裏返し」の現象”音節文字としての楔形文字では、同じ音を複数の異なるサインが表す「同音異字(homophony)」と、それを区別する索引番号について扱った。本記事では、その裏返しの現象、すなわち1つのサインが文脈に応じて複数の異なる音・読みを持つ「多価性(polyphony、ポリフォニー)」を見ていく。
実例:DUサインの複数の読み
Section titled “実例:DUサインの複数の読み”移動や到着に関わる動詞にしばしば用いられるDUサインは、シュメール語の中でも特に多くの読みを持つサインの一つとして知られる。
𒁺
duドゥ(読み1)行く、来る(マルー形語幹の一つ)𒁺
ginギン(読み2)行く(前の読みと近い意味だが、文法的な使用文脈が異なる)𒁺
tum2トゥム(読み3)持って行く、運ぶ𒁺
de6デ(読み4)持って来る、運んで来る(求心的な文脈)まったく同じグリフ 𒁺 でありながら、これら4つの読みは互いに音としても意味の細部としても異なる。どの読みで解釈するかは、文脈(どの文法形式で使われているか、前後にどんな接頭辞が付いているかなど)によって決まる。
なぜ1つのサインに複数の読みが生まれたのか
Section titled “なぜ1つのサインに複数の読みが生まれたのか”多価性は、もともと異なる単語を表す複数の絵文字が、字形の簡略化・統合の過程で偶然同じ形に収斂した結果生じたと考えられている。つまり、現在は1つの記号に見えても、その起源をたどれば複数の異なる「祖先」を持つ記号が合流した結果である場合がある。
同音異字との違い
Section titled “同音異字との違い”| 現象 | 方向性 | 例 |
|---|---|---|
| 同音異字(homophony) | 複数のサイン → 同じ音 | du・du3・du6(すべて「ドゥ」) |
| 多価性(polyphony) | 1つのサイン → 複数の音 | 𒁺(du・gin・tum2・de6) |
この2つの現象は方向が正反対でありながら、どちらも「サインと音は必ずしも1対1に対応しない」という楔形文字の本質的な特徴を示している。
💬 学びのコラム:1人4役の役者
ニン:𒁺 が `du` にも `gin` にも `tum2` にも `de6` にもなるって、1人の役者が4つの役をこなしてるみたいだね。
エン:まさにその喩えがぴったり。しかも今回は同音異字の逆で、「同じ見た目なのに読みが違う」パターンなんだ。
ニン:じゃあ観客(読み手)は、その役者がどの役を演じているか、舞台(文脈)を見て判断しないといけないんだね。
エン:そう。サインと音が1対1じゃないという点は、[楔形文字の読み方](/sumerian/script-and-phonology/cuneiform-reading/)で見た話ともつながっているよ。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”📝 理解度チェック
Q1. 「多価性(ポリフォニー)」とはどのような現象か。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は B「1つのサインが文脈に応じて複数の異なる音・読みを持つ現象」。
解説:「1つのサインが文脈に応じて複数の異なる音・読みを持つ『多価性(polyphony、ポリフォニー)』を見ていく」とある。
Q2. DUサイン 𒁺 が持つ読みとして本文に挙げられていないものはどれか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は D「zu(知る)」。
解説:本文で挙げられているのは `du`・`gin`・`tum2`・`de6` の4つの読みであり、`zu` は含まれない。
Q3. DUサインのどの読みで解釈するかは、何によって決まるか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は B「文脈(文法形式や前後の接頭辞など)」。
解説:「どの読みで解釈するかは、文脈(どの文法形式で使われているか、前後にどんな接頭辞が付いているかなど)によって決まる」とある。
Q4. 多価性が生まれた原因として本文が挙げているのはどれか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「もともと異なる単語を表す複数の絵文字が、字形の簡略化・統合の過程で同じ形に収斂したこと」。
解説:「もともと異なる単語を表す複数の絵文字が、字形の簡略化・統合の過程で偶然同じ形に収斂した結果生じたと考えられている」とある。
Q5. 同音異字(homophony)と多価性(polyphony)の方向性の違いは何か。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「同音異字は『複数のサイン→同じ音』、多価性は『1つのサイン→複数の音』」。
解説:表に「同音異字(homophony)|複数のサイン → 同じ音」「多価性(polyphony)|1つのサイン → 複数の音」と対比されている。