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円筒印章銘文の読み方

円筒印章(cylinder seal)は、粘土に転がして押印することで所有者を示す、シュメールで広く使われた小さな彫刻円筒である。行政文書に押された封印にはしばしば、所有者を示す短い銘文が刻まれている。この銘文はきわめて定型的で、「PN1(所有者)、PN2(父)の子、PN3(神または王)の僕」という構造を繰り返すことが多い。

lu2-dingir-ra dumu ur-dnanše-ke4 ir11 d nanše
ルー・ディンギッラ ドゥム ウル・ナンシェ・ケ イル ナンシェ

逐語グロス

カタカナ読み 形態素分析 意味
lu2-ddingir-ra ルー・ディンギッラ(dは限定符で読まない) 固有名詞 ルー・ディンギッラ(印章の所有者名)
dumu ドゥム 名詞 子(息子)
ur-dnanše-ke4 ウル・ナンシェ・ケ(dは読まない、索引番号4も読まない) 固有名詞 + -ak(属格、能格の前で -ke4 の形をとる) ウル・ナンシェの
ir11 イル(索引番号11は読まない) 名詞 僕(しもべ)、奴僕
dnanše ナンシェ(dは限定符で読まない) 固有名詞 女神ナンシェ

日本語訳:「ルー・ディンギッラ、ウル・ナンシェの子、ナンシェ女神の僕。」 English: “Lu-dingira, son of Ur-Nanše, servant of the goddess Nanše.”

  • dumu(子)+ 父の名 + 属格 -ak という並びは、属格 -akの記事で見た「所有される名詞+所有者+ -ak」という基本構造そのものである。
  • 女性の所有者の場合は dumu(息子)の代わりに dumu-munus(娘)が、また ir11(男性の僕)の代わりに geme2(女性の僕)が使われる。
  • 銘文末尾の「〜の僕」という句は、単なる身分表示であると同時に、その神(または王)への敬虔さを示す定型的な表現でもある。

このように円筒印章銘文は非常に短いながらも、人名の構造・属格連鎖・基本語彙という、ここまでの記事で学んだ要素を組み合わせて読み解くことができる、絶好の総合演習の題材である。

エン

💬 学びのコラム:はんこのご先祖さま

エン:ニン、円筒印章ってさ、粘土の上でコロコロ転がすと、模様と銘文がずっと連続して現れるんだよ。

ニン:まさに「はんこ」のご先祖さまだね。しかも銘文には持ち主の名前・親の名前・仕える神様まで刻んであるなんて、今の名刺よりずっと情報量が多い。

エン:そして嬉しいのは、この銘文を読むのに、人名の構造も、属格 `-ak` も、コピュラ `me` も――ここまで学んできたことが全部つながって使えることなんだ。

ニン:小さな印章ひとつに、これまでの学びがぎゅっと詰まってるんだね。私たちも一緒に、ここまでよく頑張ったね!