関係節とša
šaの二つの顔
Section titled “šaの二つの顔”アッカド語の ša は、格変化も性・数変化も一切しない**不変化の小辞(invariable particle)**でありながら、文法上とても働き者の語である。大きく分けて次の2つの用法を持つ。
- 関係節を導き、「〜する(人・物)」「〜した(人・物)」を表す関係詞としての用法。
- 名詞と名詞を結び付け、構成形(コンストラクト状態)の代わりに所有・所属関係(「〜の」)を表す属格迂言法としての用法。
属格迂言法:構成形の代替手段
Section titled “属格迂言法:構成形の代替手段”「王の家」を表すには、構成形を使って bīt šarrim(家-構成形+王-属格)とする方法のほかに、ša を使った迂言的な表現も可能である。
𒁉𒌈 𒊭 𒊭𒅈𒊑𒅎
bītum ša šarrimビ・トゥム シャ シャ・アル・リ・イム家-主格 〜の 王-属格「王の家」構成形 bīt šarrim では先頭の名詞(bītum)が語尾のミメーション(-um)を失った特別な「構成形」になるのに対し、ša を使う場合は先頭の名詞を通常の完全な形(bītum)のまま保てるという違いがある。ša はいわば「の」に相当する独立した単語として働き、2つの名詞句をつなぐ役割を担う。両者の使い分けや構成形の詳しい仕組みについては構成形(コンストラクト状態)の記事を参照してほしい。
関係詞としてのša:関係節を導く
Section titled “関係詞としてのša:関係節を導く”ša のもう一つの、そしてより中心的な用法は、動詞を含む節全体を名詞に付加する関係節標識としての機能である。
𒀀𒉿𒈝 𒊭 𒁉𒋫𒄠 𒄿𒁍𒋗
awīlum ša bītam īpušuア・ウィ・ルム シャ ビ・タ・アム イ・プ・シュ男-主格 〜する 家-対格 彼が建てた(従属形)「家を建てた男」この文では ša が「男」(awīlum)に関係節「家を建てた」(bītam īpušu)を結び付けている。関係節内の動詞 īpušu(彼は建てた)には、主節の動詞(後述)には現れない -u という語尾(従属節標識、サブオーディネイティブ)が付いている点にも注目したい。これは関係節・従属節に特有の形で、アッカド語の語順(SOV)の記事で扱う独立の平叙文の動詞形とは区別される。
不変化であることの意味
Section titled “不変化であることの意味”ša の最大の特徴は、先行詞の性・数・格がどうであっても一切形を変えないことである。男性を指しても女性を指しても、単数でも複数でも、主格の名詞に付いても属格・対格の名詞に付いても、常に同じ ša が使われる。
これは、ヘブライ語やアラビア語など他のセム語派の言語と比較すると際立つ特徴である。たとえば古典アラビア語の関係代名詞は、先行詞の性・数・格に応じて alladhī(男性単数)、allatī(女性単数)、alladhīna(男性複数)のように形を変える。聖書ヘブライ語も同様に、限定された文脈では性・数に応じた関係詞的要素が使われることがある。こうした言語を学んだことのある読者にとって、アッカド語の ša が常に同じ形のまま使われるのは意外に感じられるかもしれない。アッカド語は、関係詞という機能語を極限までシンプル化し、文脈と語順によって先行詞との関係を明確にする言語だと言える。
💬 学びのコラム:働き者すぎる小さな単語
イシュタル:シャマシュ、`ša` って「〜の」にもなるし「〜する人」の「〜する」にもなるのね。これ、混乱しない?
シャマシュ:最初は戸惑うけど、文脈で判別できるよ。名詞+`ša`+名詞なら「〜の」、名詞+`ša`+動詞を含む節なら関係節だってすぐ分かる。
イシュタル:それに `ša` は性も数も格も一切変わらないのがすごいわ。アラビア語やヘブライ語だと関係詞が先行詞に合わせて形を変えるのに。
シャマシュ:アッカド語らしい合理化かもね。1つの単語に2つの仕事をさせて、しかも活用の手間を省く。効率的な言語だよ。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”📝 理解度チェック
Q1. `ša` の文法的な性質として正しいものはどれか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は B「一切形を変えない不変化の小辞である」。
解説:本文冒頭に「`ša` は、格変化も性・数変化も一切しない不変化の小辞……でありながら」とある。
Q2. `bītum ša šarrim` と構成形 `bīt šarrim` の違いとして本文が説明しているのはどれか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は B「`ša` を使う場合、先頭の名詞は完全な形(ミメーション付き)のまま保たれる」。
解説:「構成形…では先頭の名詞…が語尾のミメーション(`-um`)を失った特別な『構成形』になるのに対し、`ša` を使う場合は先頭の名詞を通常の完全な形…のまま保てる」とある。
Q3. `awīlum ša bītam īpušu` の意味として正しいものはどれか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は B「家を建てた男」。
解説:例文の訳として「家を建てた男」と示されている。
Q4. 関係節内の動詞 `īpušu` に付いている `-u` の語尾は何を示すか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は C「従属節標識(サブオーディネイティブ)」。
解説:「関係節内の動詞…には、主節の動詞…には現れない `-u` という語尾(従属節標識、サブオーディネイティブ)が付いている」とある。
Q5. `ša` が他のセム語派の関係詞と比較して際立つ特徴は何か。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「アラビア語・ヘブライ語の関係詞と異なり、先行詞の性・数・格に応じて変化しない」。
解説:「古典アラビア語の関係代名詞は、先行詞の性・数・格に応じて…形を変える」のに対し、`ša` は常に同じ形のまま使われると説明されている。