書字方向と記号の向き:左右対称性の読み方
ヒエログリフには「決まった書字方向」がない
Section titled “ヒエログリフには「決まった書字方向」がない”アルファベットのように常に一方向にしか書かないシステムとは異なり、ヒエログリフは右から左・左から右・上から下への縦書きのいずれでも書くことができた。碑文の配置やデザイン上のバランスに応じて、書記官はこれらを自由に選択した。そのため、初めてヒエログリフの実物(神殿の壁や石碑)を見た学習者は、どこから読み始めればよいのか戸惑うことが多い。
読み方向を見分ける規則:「顔が向く方向から読む」
Section titled “読み方向を見分ける規則:「顔が向く方向から読む」”この問題を解決する簡単な規則がある。人物や動物を描いた記号(人の座像、鳥、ヘビなど)は、必ずどちらかの方向を向いて描かれる。そして、読み手はその記号が「向いている」方向から読み始める――言い換えれば、記号の顔・視線が指す先に向かって読み進める。
たとえば、記号がすべて左を向いて描かれている場合、テキストは右から左に読む(読み手は右側の記号から出発し、記号たちの視線が向かう左方向へと読み進める)。逆に記号が右を向いていれば、テキストは左から右に読む。この規則は、エジプト学を学ぶ者が最初に叩き込まれる基本原則の一つである。
縦書きの場合
Section titled “縦書きの場合”同じ規則は縦書き(列を上から下へ書く形式)にも適用される。列の並び自体は右から左・左から右のどちらの順序もありうるが、各列の中では上から下へ読み、どの列から読み始めるかは、その列の中の人物・動物記号が向いている方向によって判断する。
敬称転置(オナリフィック・トランスポジション)
Section titled “敬称転置(オナリフィック・トランスポジション)”ヒエログリフには、文法上の語順よりも敬意(reverence)を優先して記号の並びを変えるという独特の慣習があった。これを敬称転置(honorific transposition)と呼ぶ。神の名や王の称号は、実際の文法的な位置にかかわらず、しばしば単語や句の先頭に書かれた。
代表的な例が、王の称号 nsw(「上エジプトの王」を意味する称号の一部)である。この語は本来 s-w-n(あるいは関連する語根)の順で発音・分析されるべきところ、実際の書記では王権を象徴する「スゲの植物」の記号(Gardiner M23、この記事の検証済みグリフ一覧には含まれないため図示は省略する)を先頭に配置し、その後に他の音要素を続けるという書き方が定着していた。ここでは音だけを単子音記号で示す形で見てみよう。
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nswンス(伝統的にはsw-t-nのように王権に関わる要素を先頭に書く「敬称転置」が行われる語の一つ)王(特に上エジプトの王を指す称号の要素)このように、実際の碑文上の記号の並び順が、文法的・音韻的な語の構造とは必ずしも一致しないことがある点は、ヒエログリフを読むうえで覚えておくべき重要なポイントである。敬称転置は、書記官が王や神への敬意を、文字の配置そのもので表現しようとした工夫だったと理解できる。
💬 学びのコラム:王様はいつも「一番先」
ラー:マアト、さっきの nsw の話、文法的には後ろに来るはずの要素が、なんで先頭に書かれちゃうの?
マアト:それは敬意の表れなのよ。エジプトの書記官たちは、王や神に関わる語を、たとえ文法的には後ろに読むべきでも、目立つように先頭に配置したの。「敬称転置」って呼ばれる習慣ね。
ラー:手紙で目上の人の名前を一番最初に大きく書くようなものかな。
マアト:まさにそう。読むときは順番通りではなく、実際の発音の順序を知っている必要がある――だから最初は少し戸惑うポイントなの。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”📝 理解度チェック
Q1. ヒエログリフの書字方向について正しいのはどれか?
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は C「右から左・左から右・縦書きのいずれでも書くことができた」。
解説:ヒエログリフは右から左・左から右・上から下への縦書きのいずれでも書くことができ、碑文の配置に応じて書記官が選択した。
Q2. 読み方向を見分ける基本規則として本文が説明しているのは何か?
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は B「人物・動物の記号が向いている方向から読み始める」。
解説:人物や動物を描いた記号は必ずどちらかの方向を向いており、読み手はその記号が向いている方向から読み始める。
Q3. 記号がすべて左を向いて描かれている場合、テキストはどう読むか?
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「右から左に読む」。
解説:記号が左を向いている場合、読み手はその視線が向かう左方向へ読み進めるため、右から左に読む。
Q4. 敬称転置(honorific transposition)とはどのような慣習か?
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は B「神の名や王の称号を、文法上の位置にかかわらず先頭に書く慣習」。
解説:敬称転置は、神の名や王の称号を、実際の文法的な位置にかかわらず、敬意を表すために単語や句の先頭に書く慣習である。
Q5. 本文で敬称転置の例として挙げられている語はどれか?
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は C「nsw「(上エジプトの)王」」。
解説:本文では王の称号 nsw を、王権を象徴する記号が先頭に置かれる敬称転置の代表例として紹介している。