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古ノルド語の音韻体系

古ノルド語は短母音9個・長母音9個という、当時のゲルマン諸語の中でも特に豊かな母音体系を持つ。長短はそれぞれ独立して意味を弁別する(古ノルド語の翻字規則を参照)。

短母音 長母音 舌の位置の目安
a á 後舌・非円唇
e é 前舌・非円唇・半広
i í 前舌・非円唇・狭
o ó 後舌・円唇・半広
u ú 後舌・円唇・狭
y ý 前舌・円唇・狭
æ 前舌・非円唇・広め(本来は長母音のみ)
œ 前舌・円唇・広め(本来は長母音のみ)
ǫ 後舌寄り・円唇・広め(本来は短母音のみ)

さらに二重母音として ei, ey, au の3つがある(例:steinn「石」、heyra「聞く」、auga「目」)。

子音はおおむね現代英語話者にも聞き取りやすい体系だが、いくつか特徴的な音がある。

特徴 説明
þ / ð の対立 無声・有声の歯摩擦音を文字で区別する(詳細は翻字規則の記事を参照)
無声鼻音・流音 hl-, hn-, hr- のように h と共起する語頭子音連続を持つ(例:hringr「指輪」)
長子音(重子音) 子音字を重ねて書くことで調音時間の長い子音を表す(例:kalla「呼ぶ」の ll)
r音の変種 語末の主格語尾 -r は、直前の子音の種類によって同化することがある

i-ウムラウトは、後続音節に ij があったために先行する母音が前寄り・広めに変化する現象で、印欧語比較言語学でいう「変母音」に相当する。この変化はゲルマン祖語の段階で起こったが、古ノルド語の名詞複数形や動詞の人称変化に痕跡として広く残っている。

gestr(客、単数) → gestir(客たち、複数)
e はi-ウムラウトを経た母音

より顕著な例として、名詞 fótr(足)と fœtr(足たち、複数)の対応があり、ó が œ に変化しているのがわかる。この交替は後の記事「強変化名詞と弱変化名詞」でも扱う。

u-ウムラウトは、後続音節の u によって先行する a が円唇化して ǫ に変化する現象である。

land(土地、単数) → lǫnd(土地々、複数)
a はu-ウムラウトを経て ǫ に

u-ウムラウトも同様に、名詞の格変化や動詞の活用表に規則的に現れるため、パラダイムを覚える際の重要な手がかりとなる。

古ノルド語の強勢は原則として語頭の音節(語根音節)に固定されている。これはゲルマン諸語に共通する特徴で、印欧祖語の可動アクセントから、ゲルマン祖語の段階で語頭固定アクセントへと変化したことに由来する。接頭辞や語尾がどれだけ長くなっても、強勢は語頭のまま動かない。

オーディン

💬 学びのコラム:ウムラウトは母音の「引っ張られ現象」

オーディン:フレイヤ、*fótr*(足)が複数形で *fœtr* になるの、なんだか不思議じゃない?語尾に何かついたわけでもないのに母音が変わるなんて。

フレイヤ:それがウムラウトね。実は昔、複数形の語尾に i の音がついていて、その i に先行する母音が「引っ張られて」前寄りになったのよ。今では引っ張った張本人の i 自体はもう消えちゃったけど、引っ張られた跡だけが母音の変化として残っているの。

オーディン:英語の foot → feet も同じ現象なんだよね。ゲルマン語族の親戚だけあって、同じ仕組みが顔を出すんだ。