中動態
能動態と中動態
Section titled “能動態と中動態”ヒッタイト語の動詞は、mi活用・hi活用という活用の種類とは別に、**態(ヴォイス)の区別も持つ。態には能動態(active)と中動態(mediopassive)**の2つがあり、中動態はその名のとおり、印欧諸語に広く見られる「中動態」(動作の結果が主語自身に及ぶことを示す態)と「受動態」の両方の機能を兼ねている。
中動態の人称語尾
Section titled “中動態の人称語尾”中動態は、能動態とは異なる専用の人称語尾一式を持つ。
| 人称・数 | 現在形(中動態) | 過去形(中動態) |
|---|---|---|
| 1人称単数 | -ḫa(ri) | -ḫat(i) |
| 2人称単数 | -ta(ri) | -tat(i) |
| 3人称単数 | -a(ri) / -ta(ri) | -at(i) / -tat(i) |
| 3人称複数 | -anta(ri) | -antat(i) |
ki-ša-riキシャリなる/起こる-3単現(中動態)「(それは)起こる、〜になる」受動的な意味を表す中動態
Section titled “受動的な意味を表す中動態”中動態は、対応する能動態動詞の目的語を主語に昇格させる、受動態に近い意味で使われることがある。
能動態:kuen-zi「彼は殺す」中動態:kunna-ri「彼/それは殺される」このように、能動文の目的語であったものが、中動態の文では主語として現れ、動作主(誰が殺したか)は必ずしも明示されない、という受動文に典型的な構文上のふるまいを見せる。
中動態でしか現れない動詞(デポネント動詞)
Section titled “中動態でしか現れない動詞(デポネント動詞)”ヒッタイト語には、対応する能動態の形を持たず、常に中動態の形でのみ現れる動詞がある。これは古典語文法でいう「デポネント動詞」に相当する。たとえば「なる、起こる」を意味する kiš- は、通常中動態の形(kišari など)でのみ用いられ、対応する能動態の活用形は実質的に用いられない。このような動詞では、中動態はもはや「受動」や「動作が自分自身に及ぶ」という積極的な意味を持たず、単にその動詞の基本的な活用形として定着していると考えられる。
印欧語比較言語学における位置づけ
Section titled “印欧語比較言語学における位置づけ”能動態・中動態という2分法自体は、古代ギリシア語やサンスクリットにも見られる印欧祖語以来の古い体系の反映と考えられている。ヒッタイト語の中動態の語尾(-ḫa, -ta, -a など)は、これらの言語の中動態語尾と系統的に対応すると考えられており、mi活用とhi活用の対立とあわせて、ヒッタイト語の動詞体系が印欧祖語の複雑な形態論を独自のかたちで受け継いでいることを示す証拠の一つとなっている。
💬 学びのコラム:能動態を持たない動詞がある不思議
ウルシェム:タルフンナ、kiš-「なる、起こる」って動詞、能動態の形がほとんど使われないんだって。
タルフンナ:え、それってつまり、その動詞は生まれたときから「中動態専門」ってこと?
ウルシェム:そうなの。デポネント動詞って呼ばれていて、形は中動態なのに、意味の上では受け身でも自分に返ってくる動作でもない、ただの普通の動詞として使われるの。
タルフンナ:まるで見た目だけ特別な服を着ているけど、中身はふつうの人、みたいな感じだね。
理解度チェック
Section titled “理解度チェック”📝 理解度チェック
Q1. ヒッタイト語の中動態が兼ねる機能はどれか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「中動的な意味と受動的な意味の両方」。
解説:中動態は中動的な意味と受動的な意味の両方を兼ねる態である。
Q2. kuen-zi「彼は殺す」に対応する中動態の形 kunna-ri が表す意味はどれか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「「彼/それは殺される」という受動的な意味」。
解説:kunna-riは能動文の目的語を主語に昇格させる受動的な意味を表す。
Q3. デポネント動詞とはどのような動詞か。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「対応する能動態の形を持たず、常に中動態の形でのみ現れる動詞」。
解説:デポネント動詞は能動態の形を持たず、中動態の形のみで用いられる動詞である。
Q4. kiš-「なる、起こる」のようなデポネント動詞において、中動態の形はどのような意味を持つとされるか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「積極的な受動・中動の意味を失い、単なる基本的な活用形として定着している」。
解説:デポネント動詞では、中動態が受動・中動の積極的な意味を持たず、単に基本の活用形として定着していると考えられている。
Q5. ヒッタイト語の能動態・中動態の2分法はどのように位置づけられるか。
✅ 正解です!
❌ 不正解です。正解は A「古代ギリシア語やサンスクリットにも見られる印欧祖語由来の古い体系の反映」。
解説:能動態・中動態の2分法は印欧祖語以来の古い体系の反映と考えられ、他の印欧諸語にも見られる。