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ハンムラビ法典 序文

ハンムラビ(Ḫammu-rapi)は、バビロン第1王朝の6代目の王で、おおよそ紀元前1792年から前1750年頃(中期年代論)にかけて統治した。彼の名を冠する「ハンムラビ法典」は、全282条からなる楔形文字法文集で、高さ約2.25メートルの黒色閃緑岩(ダイオライト)の石碑に刻まれている。

石碑はもともとバビロンの公共の場か神殿域に建てられたと考えられるが、前12世紀頃、エラム王シュトルク・ナフンテ1世がバビロンを攻めた際に戦利品として彼らの都スサ(現在のイラン・フーゼスターン州)へ持ち去られた。石碑は1901〜1902年、フランスの考古学調査隊(ジャック・ド・モルガン隊)によってスサで再発見され、現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されている。石碑上部の浮き彫りには、ハンムラビが太陽神・正義の神であるシャマシュ(本サイトのマスコットの名の由来でもある)から、王権の象徴である「杖と輪」を授かる場面が刻まれている。

法典本体(282条の個々の法文)の前には長い序文が、後には跋文が置かれ、いずれも法文とは異なる格調高い文体で、ハンムラビが行った敬虔な事業や恩恵を受けた諸都市を列挙する。序文冒頭は、神々がハンムラビに正義を打ち立てる使命を与えたといういきさつを語り起こす、非常に長い一文(複数行にわたる従属節の連鎖)で始まる。

序文の書き出しは、天の神アヌ(Anum)への言及から始まる。以下はその最初の3語である。

𒄿𒉡𒈠 𒀭𒀀𒉡𒌝 𒍢𒄿𒀸

i-nu-ma ᵈA-nu-um ṣi-i-rum
イ・ヌ・マ ア・ヌ・ウム(𒀭は神名の限定符で読まない) ツィ・イ・ルム
〜のとき アヌ(神名)-主格+ミメーション 気高い、至高の-主格(Anumに一致)
「気高きアヌが……のとき」

この後に文はさらに「アヌンナキ神々の王、天と地の主にして国土の運命を定めるエンリル神が……エア神の長子マルドゥクに、あらゆる人類に対するエンリル神の職務を委ね、彼をイギギ神々の中で偉大な者とし、バビロンの名を気高く呼び……正義の王、私ハンムラビを立てて、国に正義を打ち立てさせ、悪しき者と邪な者を滅ぼし、強き者が弱き者を虐げぬようにと……」と続き、実際に主動詞にたどり着くまで数十行を要する長大な一文になっている。

翻字 楔形文字 カタカナ読み 形態素分析 意味
i-nu-ma 𒄿𒉡𒈠 イ・ヌ・マ inu「〜のとき」+ -ma(接続の強調小辞) 〜のとき
ᵈA-nu-um 𒀭𒀀𒉡𒌝 ア・ヌ・ウム Anu(神名語幹)+ -um(主格語尾+ミメーション) アヌ(天の神)
ṣi-i-rum 𒍢𒄿𒀸 ツィ・イ・ルム ṣīr-(「気高い、至高の」を意味する形容詞語幹)+ -um(主格語尾) 気高い、至高の
  • inūma:「〜のとき」を表す従属節標識の接続詞。序文全体は、この語に導かれる巨大な時の従属節から始まり、主節の動詞(「私は……を定めた」に相当する語)に至るまでに数十行を要する。
  • 格語尾とミメーション:Anum と ṣīrum はともに語末が -um で終わっている。これは主格単数の格語尾 -um(古バビロニア語の時期に見られる、格語尾の後にさらに付く鼻音 -m=ミメーションを含む)であり、後代の方言ではこの -m は脱落し母音も短縮される。詳しくは名詞の格変化とミメーションを参照。
  • 形容詞の一致:ṣīrum「気高い」は名詞 Anum を修飾する形容詞で、性・数・格のすべてにおいて名詞と一致するため、名詞と同じ -um 語尾を取る。詳しくは形容詞の格変化と一致を参照。
  • 限定符 ᵈ:神名の前に置かれる限定符(元は楔形文字の AN 記号に由来)で、それ自体は発音されない記号である。翻字では上付きの d(DINGIR の略)で示す。
イシュタル

💬 学びのコラム:法典の主語にたどり着くまで数十行

イシュタル:シャマシュ、ハンムラビ法典の序文って、「アヌが……のとき」で始まって、実際に「私ハンムラビは」という主語が出てくるまでにものすごく長いのよ。

シャマシュ:え、一文でそんなに長いの?現代語で言えば「〜であるとき、〜であるとき、……、私は〜した」って感じ?

イシュタル:まさにそう。神々の系譜や役割を丁寧に述べてから、ようやく人間の王ハンムラビの使命へとつながっていく。まるで壮大な前置きを積み重ねる叙事詩の語り口ね。

シャマシュ:ぼくの名前の由来でもある太陽神シャマシュが、石碑の上でハンムラビに王権の印を授けている絵があるのも、法の正当性を神々に結びつける演出なんだろうね。

📝 理解度チェック

Q1. ハンムラビ法典の石碑は、現在どこに所蔵されているか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「ルーヴル美術館」。

解説:「石碑は……スサで再発見され、現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されている」とある。

Q2. 石碑がスサへ持ち去られた経緯として本文が説明しているのはどれか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「前12世紀頃、エラム王シュトルク・ナフンテ1世が戦利品として持ち去った」。

解説:「前12世紀頃、エラム王シュトルク・ナフンテ1世がバビロンを攻めた際に戦利品として彼らの都スサへ持ち去られた」とある。

Q3. 例文中の `inūma` はどのような働きをする語か。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「『〜のとき』を表す従属節標識の接続詞」。

解説:「`inūma`:『〜のとき』を表す従属節標識の接続詞」とある。

Q4. `Anum` と `ṣīrum` に共通する語末 `-um` について、本文が説明している内容はどれか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「主格単数の格語尾とミメーション(鼻音 -m)からなる」。

解説:「これは主格単数の格語尾 `-um`(……さらに付く鼻音 `-m`=ミメーションを含む)であり」とある。

Q5. 石碑上部の浮き彫りに描かれている場面はどれか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「ハンムラビが太陽神シャマシュから王権の象徴を授かる場面」。

解説:「ハンムラビが太陽神・正義の神であるシャマシュから、王権の象徴である『杖と輪』を授かる場面が刻まれている」とある。