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名詞の格変化概説(主格・対格・属格・与格)

古ノルド語は名詞・代名詞・形容詞が文中の役割に応じて語形変化する屈折語である。格は4つ――主格(nominative)・対格(accusative)・属格(genitive)・与格(dative)――に整理され、これは現代ドイツ語やアイスランド語の格体系とほぼ同じ枠組みである。さらに単数・複数の数、男性・女性・中性の文法性も名詞ごとに固定されている。

主な役割 目印となる典型的な問い
主格 文の主語 「誰が/何が」
対格 直接目的語、方向を表す前置詞の目的語 「誰を/何を」
属格 所有・所属関係 「誰の/何の」
与格 間接目的語、位置を表す前置詞の目的語 「誰に/何に」

古ノルド語で最も規則的な変化型の一つである、男性強変化a語幹名詞 armr(腕)を例に見てみよう。

単数 複数
主格 armr armar
対格 arm arma
属格 arms arma
与格 armi örmum

(与格複数 örmum に見られる o→ö の変化はu-ウムラウトによるもので、古ノルド語の音韻体系で扱った現象である。)

konungr sér arm jarls
konungr sé-r arm jarl-s
王(主格) 見る-3単 腕(対格) 伯爵-属格
「王は伯爵の腕を見る」

konungr(王)は文の主語なので主格、arm(腕)は直接目的語なので対格、jarls(伯爵の)は所有を表すので属格になる。3つの格が1文の中で異なる役割を担っている様子がよくわかる例である。

与格の例も見ておこう。

konungr gefr jarli sverð
konungr gef-r jarl-i sverð
王(主格) 与える-3単 伯爵-与格 剣(対格)
「王は伯爵に剣を与える」

jarli(伯爵に)は間接目的語として与格を取っている。このように「誰に何を与えるか」という二重目的語構文では、間接目的語が与格、直接目的語が対格になるのが基本パターンである。

フレイヤ

💬 学びのコラム:語順が自由な理由

フレイヤ:オーディン、`konungr sér arm jarls` って、語順を変えて `arm jarls sér konungr` にしても意味は通じるの?

オーディン:基本的には通じるよ。英語だと語順だけが主語・目的語を決めるけど、古ノルド語は格語尾がその役割を担っているから、多少語順を入れ替えても文の骨格は崩れないんだ。

フレイヤ:じゃあ詩や韻文で語順を自由に組み替えられるのも、格変化のおかげなのね。

オーディン:その通り。『古エッダ』の詩の語順が独特に感じられるのも、格語尾が意味を支えてくれているからこそ許される自由さなんだ。