コンテンツにスキップ

アッカド語の数字表記

アッカド語の粘土板で数量を記録する方法には、大きく分けて2種類がある。1つは、シュメール語の会計伝統をそのまま受け継いだ数字専用記号(楔と「ウィンケルハーケン」と呼ばれる爪形の刻みを組み合わせた記号)で数量そのものを直接示す方法。もう1つは、実際にアッカド語で発音される数詞を音節文字で綴る方法である。両者は役割が異なり、行政・経済文書では前者が、文章の中で数が読み上げられたり格変化したりする文脈では後者が使われる。

数字専用記号:シュメール由来の六十進法

Section titled “数字専用記号:シュメール由来の六十進法”

アッカド語の数字専用記号は、シュメール語の行政文書で使われていた六十進法(60を底とする位取り記数法)の記号体系をそのまま受け継いでいる。基本となるのは次の3つの記号である。

数 楔形文字 対応するサイン名 説明
1 𒁹 DIŠ 縦の刻線1本
10 𒌋 U 爪形の刻み(ウィンケルハーケン)1つ
60 𒁹 DIŠ(大) 1と全く同じ形だが、より大きな印影で刻まれる

1〜9までの数はDIŠ記号を必要な数だけ並べて示し(例:3なら𒐈のように3本まとめた専用の合字も後代には使われる)、10の倍数はU記号を並べて示す。60進法の性質上、「60」は再び「1」からの繰り返しの起点となるため、シュメール語の古い記数法では、1と全く同じ形の記号を、単に大きな印影で刻むことで60を表すという合理的な工夫がなされていた。この体系はアッカド語の行政文書・経済文書にもそのまま受け継がれ、粘土板に数量を記録する際の標準的な方法であり続けた。

音節綴りの数詞:話し言葉としての数

Section titled “音節綴りの数詞:話し言葉としての数”

数字専用記号はあくまで数量を直接示す記号であり、それ自体はアッカド語の発音を表さない。実際に文中で数が主語や目的語として現れ、格変化して読み上げられる場合には、アッカド語本来の数詞を音節文字で綴った。「1」を意味する ištēn を見てみよう。

𒅖𒋼𒂗

iš-te-en
イシュ・テ・エン
ištēn「1」(男性形の基数詞)

「2」を意味する šina も同様である。

𒅆𒈾

ši-na
シ・ナ
šina「2」(男性形の基数詞)

「3」を意味する šalāš も同様に音節綴りで示すことができる。

𒊭𒆷𒀸

ša-la-aš
シャ・ラ・アシュ
šalāš「3」(女性形の基数詞)

なお、アッカド語の基数詞は「1」「2」のように名詞を修飾する際に独特の性の一致規則を持つ(多くの基数詞では、修飾する名詞が男性名詞のとき数詞は女性形になり、その逆も起こるという「性の極性」と呼ばれる現象が見られる)。この文法的なふるまいについては、基礎文法のセクションで改めて扱う。

なぜ「10進法」ではなく「60進法」なのかという点は、シュメール語の会計慣行に由来すると考えられている。60は2・3・4・5・6・10・12・15・20・30という多くの約数を持つため、分数計算や土地・穀物の分配計算において扱いやすい数だったことが理由の一つとして挙げられる。この六十進法は、シュメール語の話者がとうに歴史から姿を消した後も、アッカド語の行政・天文・数学文書の中で長く使われ続けた。現代の時計が1時間を60分に、1分を60秒に分けているのも、この六十進法の遠い名残りだとされる。

シャマシュ

💬 学びのコラム:時計の中に眠る60進法

シャマシュ:イシュタル、1時間が60分なのって、実はぼくたちの世界の数字の書き方と関係あるって知ってた?

イシュタル:知ってる!シュメール人たちが60を底にした数え方を使っていて、それがアッカド語の行政文書にもそのまま受け継がれたんだよね。

シャマシュ:しかも面白いのは、粘土板に記録するときは記号だけで数を示すのに、実際に声に出して読むときは `ištēn`「1」みたいにちゃんと単語として発音してたってこと。

イシュタル:数字と数詞、2つの顔を使い分けてたんだね。まさに算用数字と「いち・に・さん」の関係みたい。

📝 理解度チェック

Q1. アッカド語の数量表記には大きくどのような2種類の方法があるか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は A「数量を直接示す数字専用記号と、実際に発音される数詞の音節綴り」。

解説:本文は数字専用記号(行政・経済文書向け)と、音節文字で綴られる数詞(実際に読み上げられる文脈向け)の2種類を説明している。

Q2. 古い記数法で「60」を表す際に用いられた工夫は何か。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「『1』と同じ形の記号を、より大きな印影で刻んだ」。

解説:60を表すDIŠ記号は1と全く同じ形だが、より大きな印影で刻まれることで区別された。

Q3. `ištēn`(𒅖𒋼𒂗)とはどのような数詞か。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は A「『1』を意味する男性形の基数詞」。

解説:`ištēn` は音節綴りで示された「1」を意味する男性形の基数詞である。

Q4. 本文によれば、アッカド語が60進法を用いる由来はどこにあるか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は A「シュメール語の会計慣行に由来する」。

解説:本文は六十進法がシュメール語の行政・会計の伝統に由来し、それがアッカド語にそのまま受け継がれたと説明している。

Q5. 本文が挙げる、60進法が現代にまで残っている例は何か。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「1時間が60分、1分が60秒に分かれていること」。

解説:本文は現代の時計が1時間を60分、1分を60秒に分けていることを、六十進法の遠い名残りとして挙げている。