コンテンツにスキップ

プレネ表記と母音の長さ

ヒッタイト語の楔形文字テキストには、同じ母音を示す記号を2つ連続して書く綴りがしばしば現れる。これを**プレネ表記(plene writing、ラテン語 plene「充満して」に由来)**と呼ぶ。研究者の多くは、このプレネ表記が長母音を示す手段の一つであったと考えている。

pár-ku-i-e-eš
パルクイエーシュ
清らか-主格複数
「清らかな(者たち)が」

上の例では -e- が2つ連続する部分(-e-eš)がプレネ表記にあたり、この位置の母音がおそらく長母音 ē であったことを示唆する。

プレネ表記の大きな特徴は、常に一貫して使われるわけではないという点である。同じ語・同じ語幹であっても、ある写本ではプレネ表記が用いられ、別の写本や同じ写本の別の箇所では通常の単母音表記になっていることが珍しくない。このため、プレネ表記の有無だけを根拠に母音の長短を機械的に判定することはできず、複数の写本・複数の用例を比較検討する必要がある。

プレネ表記が使われやすい環境

Section titled “プレネ表記が使われやすい環境”

研究の蓄積により、プレネ表記には出現しやすい傾向がいくつか指摘されている。

  • アクセントを持つ音節(強勢のある位置)でプレネ表記が相対的に多く見られる。
  • 特定の形態素(一部の格語尾や動詞語尾)で慣習的にプレネ表記が固定化している場合がある。
  • 新ヒッタイト語期の写本ほどプレネ表記の使用頻度が高くなる傾向が指摘されることがあるが、これも書記官や文書の種類によって差があり、一般化には注意が必要である。

母音の長短は、単なる発音上の特徴にとどまらず、文法的な区別に関わる場合がある。たとえば一部の名詞・動詞の語形において、短母音形と長母音形(プレネ表記形)が異なる格や人称・数を区別する手がかりになっていると考えられる例が指摘されている。ただし、上述の表記の不徹底性のため、個々の事例についてどこまで確実に長短を認定できるかは、ヒッタイト学の中でも意見が分かれることがある。

ウルシェム

💬 学びのコラム:気まぐれな「延ばし棒」

ウルシェム:タルフンナ、日本語の「コーヒー」を「こーひー」と伸ばして書くみたいに、わたしたちの言葉にも母音を伸ばして書く習慣があるのよ。

タルフンナ:プレネ表記だね。でも聞いた話だと、同じ単語でも書記官によって伸ばしたり伸ばさなかったりするんだって?

ウルシェム:そうなの。気まぐれというか、書記官の癖や写本の時代によってばらつきがあるから、これだけを頼りに「絶対長母音だ」とは言い切れないの。

タルフンナ:手がかりではあるけど、決定打じゃないってことか。地道に多くの用例を集めて比べるしかないんだね。

📝 理解度チェック

Q1. プレネ表記とは何か。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は B「同じ母音を示す記号を2つ連続して書く綴り」。

解説:プレネ表記は同じ母音記号を重ねて書く綴りで、長母音を示す手段の一つと考えられている。

Q2. プレネ表記の大きな特徴として本文が強調しているのは何か。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は A「常に一貫して使われるわけではない」。

解説:同じ語でも写本によって表記が揺れるため、機械的な判定は難しいと説明されている。

Q3. プレネ表記が相対的に多く見られる傾向があるとされる環境はどれか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は A「アクセントを持つ(強勢のある)音節」。

解説:強勢のある音節でプレネ表記が相対的に多く見られる傾向が指摘されている。

Q4. 母音の長短の文法的な役割について本文はどう述べているか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は A「格や人称・数の区別に関わる可能性が指摘されているが、確実性には議論がある」。

解説:一部の語形で長短が文法区別の手がかりになるとされる一方、表記の不徹底性から確実性には議論があるとされている。

Q5. pár-ku-i-e-eš の例で、プレネ表記に当たる部分はどこか。

✅ 正解です!

❌ 不正解です。正解は C「-e-eš の -e- が連続する部分」。

解説:同じ母音eを示す記号が連続する-e-ešの部分がプレネ表記であり、長母音ēを示唆する。